『リーンスタートアップを学んでも、君が起業できるようにはならないよ』という手紙

リーン・スタートアップ ―ムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだす

 

これから、スタートアップに携わる君へ

昨今、スタートアップ界隈では、リーンスタートアップが盛り上がりを見せてるね。起業についてとても簡潔にわかりやすくまとめてあるので、これを読むと「俺もこの方法でやれば起業できるかも?」なんて思ったりしちゃうところが大きな落とし穴。

リーンスタートアップは、VCやインキュベータ、「ベンチャー、スタートアップ必読!」なんて偉い人が言っているものだから、読まなきゃと思うのも分かるけどさ。

私もあの頃は、これからはリーンスタートアップだ!なんて思いながら、多くの書籍を買いあさり、みんなが参加しているスタートアップセミナーに参加し、懇親会にも出て、いろんな人から話を聞いたりした。あげくの果てには、シリコンバレー、サンフランシスコまで行ってしまう始末。

ここであえて言いたい。

エリック・リースのリーンスタートアップや、スティーブン・ブランクのアントレプレナーの教科書を読んだって、君が起業できるようにはならないよ。」ってこと。

なぜかって?

リーンスタートアップって?

リーンスタートアップはとても優れた、費用対効果の高い事業構築の方法論だ。」

もう一度言おう。

リーンスタートアップはとても優れた、費用対効果の高い事業構築の方法論だ。」

実は、この方法論というところにミソがある。

方法論というのは、言わばプラモデルの組み立て説明書だ。プラモデルを買ったら、必ず付いてくるあれだ。プラモデルは、その組み立て説明書の手順に1つ1つ従って、個々のパーツを作り、そして最後に全体を組み立てる。プラモデルのパーツは決まっていて、あとはそのパーツを指示どおり組み立てるだけだ。

これで、みんなと同じものができる。手順に従って組み立てさえすれば、みんなと同じものができるんだ。

「でもね、説明書だけあっても、肝心のプラモデルがなきゃガンダムはできないんだよ。君のガンダムのプラモデルはどこにあるんだい?」

ビジネスを生み出すために必要な3つのもの

世界的に有名な大企業がやるビジネスにも、商店街にある小さな布団屋でも、お祭りの露天でも、規模の違いこそあれど、どれも立派なビジネスだ。ビジネスという言葉がしっくりこなければ、事業と言い換えてもいい。

実は、世間で言われているビジネスや事業というものが成り立つためには、必要不可欠な要素が3つある。その要素を満たしていなければ、どんな素晴らしいビジョンだろうが、どんなに世間が注目していようが、ビジネスとして決して成り立たないんだ。

その必要不可欠な3つの要素とは、「顧客」「商品」「取引」だ。

①顧客

素晴らしいビジョンというのは、人の心を動かす。共感ができる。 「多くの人が共感できるビジョンを持て」とは、起業界隈では当たり前のことだが、ビジョンがなぜ必要か?

その直接的な効果というのが、ビジョンがないよりもあった方が「顧客を創りやすくなる」からだ。

大丈夫。僕にはビジョンもちゃんとあるし。なんて思ってる?

えーと、君のビジョンって何だっけ?

ああ、「日本から世界に対抗できる企業を創る」だったね。

ビジョンというのはね、他の人が共感できなければ、犬の餌にもならないんだ。はっきり言ってゴミだ。君のそのビジョンに共感できる人、何人いるのかな?

願わくば、お金を払ってでもそのビジョンを実現したいと思ってる人が見つかるといいね。多分それは、顧客ではなく投資家だ。

②商品

「えーと、君は何を創るんだっけ? Webサービス、スマホアプリ、ゲーム?」

まあ、何でもいいや。

素晴らしいアイデアはあるけど、エンジニアがいないとかデザイナーがいないとか言う人が凄く多いけどさ、せめてワイヤーフレームぐらいは自分で書いてるんだよね?

なぜ、そういう設計にしたか説明できるんだよね?ユーザーがプロダクトを使う状況やシナリオ、その結果望まれる体験を考えてそのワイヤーフレーム書いてるんだよね?

あれが足りない、これが足りない」ではなく、君は自分が今持ってる範囲内でできるプロトタイプを作るべきだ。ないからできないのではなく、ある範囲内でまず実行するんだ。

実行した結果、生まれたプロトタイプが、君に必要なものを与えてくれるから。

③取引

ビジネスの根幹、それが「取引」だ。ビジネスそのものと言い換えてもいい。ビジネスにおいて、顧客や商品は、この取引をするために必要なんだ。

逆に言えば、どんなに多くの顧客がいようが、どんなに多くの商品を扱っていようが、この取引が発生しなければ、君の口座には一切お金が入ってこない。取引をすることで、はじめて君の口座にお金が入ってくるんだ。

ああ、ここで一つアドバイス。

「資金調達をしない場合、起業当初の運営資金は売上が全てだ。だから、商品の利益率は高くしなければいけないよ。」

これは絶対に忘れないでね。

結局、起業の成否は『顧客開発』にあるんだよ。

みんな商品ばっかり創ろうとするけどさ、起業の初期の段階において本当に重要な問題は、プロダクトを作れるかどうかじゃなくて「顧客を創れるかどうか?」なんだ。

あのとき、アップルが作ったのはAppleIじゃない。AppleIというコンピュータを通じて、熱狂的なファンを創ったんだ。熱狂的なファンが創れたから、アップルは次のステップに進む鍵を手に入れた。

プロダクトを創るよりも顧客を創れるかどうか」を考えて欲しい。セールスマンは、自らの身体を使って顧客を創るが、エンジニアやデザイナーは、自らのプロダクトで顧客を創る。

良いプロダクトとは、多機能だったり、シンプルだったり、UXが優れた物じゃない。

良いプロダクトとは、『熱狂的なファンを生むプロダクト』だ。これはいつの時代でも絶対に変わらない。私が考えた新しい定義だ。物事の本質を表面性や時代で定義するな。機能が少なかろうが、デザインがダメだろうが、そのプロダクトがファンを産めば、君は次のステージに進む鍵を受け取れる。

スタートアップ(特にシード)がうまくいくかどうかはすべてここにかかっている。プロダクトが創れたところで、顧客が創れなければそれは失敗への道なんだ。

極端な話をすれば、ビジネスにおいて商品そのものは顧客を創るための1つの手段に過ぎない。君が既に「熱狂的なファンを生む素晴らしいプロダクト」を持っていて、それを世界中の人に使ってもらいたいという状況でもない限りね。

よく覚えておいて欲しい。

2年後の君より

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