これはITベンチャー企業の採用で実際に使われている試験問題です。
問題
『磯野波平にスマホを売るには、どうしたらいいか?』
問題文はたったこれだけ。あなたなら、どう答えますか?
まずは、ターゲットを知ること。
面白い問題なので、ちょっと考えてみたいと思います。
まず、売るという取引を発生させ結果を生み出すのは、自分ではなく相手です。現在、購買の意思決定は販売者ではなく、消費者に選択が委ねられています。
ですから、まずは相手のことを知りましょう。何事も、『リサーチが重要』です。
私はTVをほとんど見ないので、サザエさんはかれこれ数年以上見ていません。磯野波平に関する記憶は盆栽が趣味ぐらいしか覚えていないので、まず彼がどんな人物なのかについて調べてみることにします。
Wikipediaのサザエさん、磯野波平の項目から使えそうな情報を抜粋しました。
磯野波平(いその なみへい)のプロフィール
【基本データ】
- 氏 名: 磯野波平(いその なみへい)
- 年 齢: 54歳
- 誕生日: 9月14日
- 星 座: おとめ座
- 出 身: 福岡県
- 立 場: フネの夫。サザエとカツオとワカメの父。タラオの祖父。マスオの義父(舅)。海平の弟、鯛造の義弟(妹婿)。ノリスケの伯父。イクラの大伯父。
- 結婚歴: フネと結婚して28年。
基本データはこんな感じですね。次は、仕事について見ていきます。
”原作では、連載初期の役職は「局長」であったが転勤のため上京した後、いつの間にか降格しており後期には平社員となっていた。
アニメでは山川商事の課長で、事務職サラリーマンとして働いている。会社は銀座の晴海通り沿いにあり、通勤手段はマスオと同じく、バスであさひが丘駅まで行って電車を利用して出社、帰宅時はあさひが丘駅から歩いて帰る。”
原作とアニメ版で設定が異なるようですね。今回は具体的な設定が書かれているアニメ版を参考にします。
【仕事データ】
- 職 業:会社員
- 企業名:山川商事
- 住 所:銀座の晴海通り沿い
- 役 職:課長
- 部 門:事務
- 通 勤:自宅⇒(バス)⇒あさひが丘駅⇒(電車)⇒???駅⇒(徒歩)⇒山川商事
- 帰 宅:山川商事⇒(徒歩)⇒???駅⇒(電車)⇒あさひが丘駅⇒(徒歩)⇒自宅
仕事に関しては、こんな感じです。事務課長ということからデスクワークが多く、社内で過ごしている時間が長そうですね。
次は、趣味、興味について見ていきます。
【趣味・興味データ】
- 趣 味:盆栽、釣り、清元、囲碁、書画、骨董、俳句
- 得 意:泳ぎ
- 苦 手:税務署、方向音痴、算数が苦手、不器用、メンマ
- 好 き:女優の三枝三枝子(さえぐさ みえこ)のファン。若い頃のブロマイドを持っている。
いろいろな趣味を持っていますね。かなり多趣味な人のようです。
次は性格を見ていきます。
性格についても詳細な情報がありますが、特に気になったのはこの記述。
“新しい物や外国の物や習慣に対して頑なまでに否定的である。最新式のマンションへの体験入居を「コンクリートの箱に住めるか!」と拒否しようとしたり、夕食にピザを出した時「わしはイタリア人じゃない!」と怒り、サザエたちが磯野家の庭で食事したことを聞いて「ここは外国じゃない!」と怒った。ただし、全自動卵割機など自分が認めた物は別である。”
スマホは新しい物なので、普通の方法じゃ納得しませんね、これは…。
さすが一家の大黒柱、磯野波平。強敵です。
その他の性格をまとめると、下記のようになりました。
【性格データ】
- 昭和の頑固親父。
- 怒ったらすぐ怒ったことを忘れる単純な性格。
- 自分の欠点をあまり他人に見せたがらない。
- 家族の家長として威厳がある。
- かなりの頑固者であり、やや短気である。
- 年寄り扱いを嫌う。
- 新しい物や外国の物や習慣に対して頑なまでに否定的。
- 但し、全自動卵割機など自分が認めたものはOK。
- 酒豪で酒癖が悪い。
- 孫であるタラオには甘い。
次は、悩みを見ていきます。
ハゲ頭に一本だけある髪の毛が波平のトレードマークとなっており、側頭部と後ろの髪の毛が残っている。洗髪後、頭頂部の一本の髪の毛を「もったいない」と言いながら丁寧にドライヤーで乾かす。薄毛を気にしており、育毛剤を愛用している。
また、こんなエピソードも。
「何かと便利で身分証明証にもなるから」と原付免許を取ろうとし問題集を購入したが、家族に猛反対を受ける。家族内では主張を通したが、ヘルメットを試着した際、髪が蒸れることを知りバイクは諦めた。
蒸れるだけの髪があるのかが、そもそも疑問ですが、涛平にとってはとにかく『髪が大事!』という価値観を持っていることがわかりました。
『スマホを買えば、薄毛が治る!』って言ったら、喜んで買ってくれるでしょうね。
他に悩みらしい悩みも見当たらなかったので、波平の悩みは薄毛で確定。
【悩みデータ】
- 悩み:薄毛(1本温存)
- 育毛剤愛用
これで、波平の基本情報、仕事、趣味、興味、性格、悩みの情報が一通り揃いました。これだけ情報があれば、何か切り口が見つかりそうです。
これらの情報を俯瞰してみてみると、性格のこの項目が気になります。
新しい物や外国の物や習慣に対して頑なまでに否定的だが、全自動卵割機など自分が認めたものはOK。
この部分にフォーカスして、調べてみましょう。
新しい物嫌いの磯野波平が、なぜ全自動卵割機を買ったのか?
調べてみたら、その動画が見つかりました。
2007年5月27日に放送されたサザエさん作品No.5875『父さん、発明の母』というエピソードですね。
この話に何かヒントがありそうです。
どうやら波平は、
通りで実演販売をしていた全自動卵割り機を買ったようです。
ただ肝心の『なぜ、全自動卵割り機を買ったのか?』という点には全く触れられていませんでした。
ここで得られたのは『実演販売』というキーワードです。
おそらく、帰宅中の山川商事から駅に向かうまでの通りで、やっていたのでしょう。
通りでの実演販売による購入ですから、始めから全自動卵割り機を買おうと思って買ったのではなく(指名買いではなく)、帰宅途中に実演販売をたまたま見て興味を持ち、買った。ということです。いわば衝動買いですね。
このエピソードからわかることは、『新しい物嫌いの磯野波平でも、興味を持てば買う』ということです。
磯野波平に何かを売るには、興味をもたせる実演販売がポイントになりそうです。
なぜ、全自動卵割り機に興味を持ったのか?
それでは、次に『なぜ実演販売で興味を持ったのか?』考えてみましょう。
- 『どうだ、母さん。これがあれば楽になるだろう?』
- 『いや〜、旨い! やっぱり、機械で割った卵は一味違いますよ!』とサラリと言えるマスオさん。磯野家での処世術を完璧にマスターしてます。
- 『そのうち、一家に一台の時代が来るかもしれん。』と自信満々に、磯野家で話す波平。
波平にとって、全自動卵割機は、テレビや携帯に並ぶもののようです。
ノリスケさんは、波平が全自動卵割り機を買ったことを知らずに、路上で見つけた全自動卵割り機を、
『買うわけはないだろ、そんなバカバカしいもの。手で割れば済むものを、わざわざ機械を使うなんてね。あんなものを買う人の気持ちがわかりませんよ。』
と、お約束通り地雷を踏んでくれます。
波平がスマホを購入する理由
ここまで見てきて、波平が商品を買うための重要なポイントが出てきました。
一家の大黒柱としては、『威厳が保てる』のが重要。
一家の大黒柱としての役割がある波平は、磯野家に新しい知識やテクノロジーをもたらすのも大事なこと。サザエやフネ、カツオやマスオさんに話した時に、「さすが、父さん!」と言われることは何よりも重要なのです。
『全自動卵割り機』以上に便利なこと。
次に商品の実利ですが、この部分では全自動卵割り機では否定的な意見だったノリスケの意見がポイントです。
ノリスケは全自動卵割り機に対して、
『買うわけはないだろ、そんなバカバカしいもの。手で割れば済むものを、わざわざ機械を使うなんてね。あんなものを買う人の気持ちがわかりませんよ。』
と辛辣なコメントを残していたことから、全自動卵割り機以上に実利的なスマホであればノリスケを唸らせることができるでしょう。
タラちゃんに「スマホ、欲しいですぅぅぅ」と懇願してもらう。
また、孫のタラちゃんには甘いという性格から、タラちゃんのお願いなら断りづらい事が考えられます。タラちゃんとデパートに行って、
タラちゃん:「欲しいですぅぅぅ、スマホ欲しいですぅぅぅ!」
と最後のプッシュとして懇願してもらえば、買ってくれる可能性は大いにあります。
このシナリオの良いところは、『かわいい孫のために買う』ので、商品そのものは何でも良いことです。
考えられるシナリオは?
これらのことをまとめると、波平がスマホを買うシナリオはこんな感じでしょうか。
『休日にタラちゃんとデパートに出かけたときに実演販売で見かけ、タラちゃんに懇願され衝動買いをする』波平。
あなたならどう波平にスマホを売りますか?
なかなか面白い試験問題だと思うので、ぜひ考えてみてください。