【1990年8月28日初心会】任天堂山内溥社長講演記録【スーパーファミコン発売3ヶ月前に語ったこと】

1990年8月28日、初心会で行われた任天堂株式会社代表取締役社長山内溥氏の講演を書き起こしました。
スーパーファミコンが発売する3ヶ月前、任天堂社長は何を語ったのか、その内容が明かされています。

山内溥氏のプロフィール

山内 溥(やまうち ひろし、1927年〈昭和2年〉11月7日 – 2013年〈平成25年〉9月19日)は、日本の実業家。出生名は山内 博(読みは同じ)。

玩具メーカーの任天堂株式会社代表取締役社長(個人商店の山内房治郎商店より数えて第3代、1949年 – 2002年)、同社取締役相談役(2002年 – 2005年)を経て、晩年まで同社の相談役を担った。

任天堂をファミコン、ゲームボーイ、スーパーファミコンなどに代表されるテレビゲームによって世界的な企業に押し上げた中興の祖として活躍された。
座右の銘は『得意冷然、失意泰然』

第2回初心会展

1990年8月28日から8月29日の2日間、第2回初心会展として、東京・晴海の国際貿易センターで開催。
72社が出展、うちスーパーファミコンのみは13社、ゲームボーイのみは14社。
スーパーファミコンは「スーパーマリオワールド」など17タイトル、ファミコンは「ワギャンランド2」など12タイトル、ゲームボーイは「ソロモンズ倶楽部」など10タイトル。山内溥氏は「年末商戦と来年の市場展望」について、タイトル数の厳選とユーザーが満足するための独創性が必要と講演した。

1990年8月28日初心会での任天堂山内溥社長講演

大変ご好評をいただきました任天堂株式会社社長山内溥様の講演に移らせていただきます。

ただいま初心会会長さんから皆様方にお礼のご挨拶がございました。

私も講演者といたしまして、改めて多数の皆様方がお越しいただきましたことに対しまして、厚くお礼申し上げます。

これから約1時間にわたりまして、我々の業界、我々の市場が、今年の年末から来年にかけまして、どのように推移していくのかという問題につきまして、私の独断ならびに偏見を持ちまして、皆様方にお話をさせていただきたいと思います。私達の業界は、ご承知のように他の多くの業界と異なりまして、ハードウェアじゃなくてソフトウェアを主導にしておる業界でございます。

ソフトウェアの力でハードウェアを伸ばしていく。

そうした点では今の世界を見渡してみましても、極めて数の少ない異色の業界ということが言えるのではないかと思っております。

ゲームソフトの価値は極めてわかりにくいもの

今日は、各ソフトメーカーさん70社がご参加いただきまして、それぞれの新しい製品を展示、紹介されたんでございますけれども、皆様方、今日御覧いただきまして、お感じになったことと思いますけれども、各ソフトメーカーさんがそれぞれ自信を持って、鋭意開発努力されている。そして、それぞれの自信作と寄与されてございますけれども、率直に申しまして、第一に感じますことは、ずいぶん種類が多いと。

とても厳密にそうした苦心の作品には違いないんですけれども、それを取り扱う側、それを販売する側からしますと、とても品定めすることができない。ということが実感ではないかなと思います。

事実、コンピューターゲームソフトというのは、足元で見て、しかも、ある一定期間、かなり使用する遊び慣れた人が遊んでみて初めて、何らかの結論が出てくるのでありまして、ただ単に短い時間見ておったんでは、本当のそのゲームの面白さとか楽しさとか、あるいは、そのゲームの価値というものは極めてわかりにくい。

わかりにくいそれにどうしても、仕入れて売るという問題になってきますと、これだけたくさんの種類が出ているわけですから、検量がつかなくなってくるのはやむを得ない、ということになります。

ファミコンは1539万台で660種のソフト、ゲームボーイは304万台で74種類のソフトが販売された

ちなみに、任天堂がファミリーコンピュータを発売しましてから、今年の7月末現在の数字を申し上げますと、本体、つまり、ファミコン本体が日本国内で1539万台出荷されました。そして、そのファミコン用のソフトウェア、ゲームソフトというのが1億8695万部、市場に出たわけです。その種類は660種類に達しております。

さらに、昨年の4月末にゲームボーイというのを出しましたけれども、このゲームボーイの日本国内で7月末の出荷総数が累計で304万台。ゲームソフトは1872万。その種類は74種類ございました。

ファミコンの場合は発売いたしましたのが昭和58年でございましたので、かなりの歳月が経過いたしておりますけれども、ゲームボーイというのは、去年の4月の末ですから、それから判断いたしますと、ハードウェアの出た数というのはさておきまして、そのソフトウェアの種類、もう74種類というのが、いかに多いかという気がいたすわけでございます。

ゲームボーイというのは、今、マーケットである一部のソフトは売れておるんですけれども、ほとんどのソフトウェアがどうもあまり売れ行きが芳しくない。
流通在庫もかなりあると推定されます。

任天堂がゲームボーイをなぜ開発したのか? なぜモノクロ液晶なのか?

元々、任天堂がゲームボーイというのを発売いたしましたのが、

ファミコンとジャンルが違う、そうした商品を出したい

というのから、この商品の開発を始めたわけであります。

冒頭申し上げましたように、私達の業界ゆうのは、ソフトウェアが(聞き取れず)、しかし、どうしたら商品をお扱いになる方が、流通の方が、ソフトの評価というのは極めて難しい。

しかしながら、ハードウェアというのはこれはソフトに比べれば、はるかにわかりやすいわけです。

ですから、ハードウェアっていうのは一体、メーカーが、任天堂が、どうしてそういうものを発売したのか、ということを当然考えて頂きたいと思うのですけれども、ゲームボーイが発売いたしました時には、そのゲームボーイのハードウェアを見られた方の中で、これはモノクロではないか、と。

つまり、今のような状況の中で、カラー化されているのが常識の時代の中で、モノクロの商品を出してくる。ということは、これは任天堂、少しおかしいと違うかというのが、そういう見方。

したがって、そういうモノクロだからそういうものはあまり売れないのではないかと、というように思われた方が多かったように聞いておりますけれども、

どうして任天堂がこれでは(聞き取れず)モノクロ商品を出したのか。ということをご説明させて頂かねばならないと思っておりますが、これは、ゲームボーイというのは、ご承知のように液晶を使います。液晶というのは、今はもう大変普及しまして、携帯型のテレビなんかもカラー液晶が使われております。

みんなが知っている馴染みが深いと思います。しかし、任天堂はこの商品っていうのはファミコンと違って、どこでも、いつでも、遊べる商品を創る。

つまり、ファミコンですとどうしても、テレビ装置につながねばなりませんけれども、汽車の中でも、飛行機の中でも、あるいは海水浴に行っても、また、山に行っても、どこででも持ち歩きができて遊べるようなツールを作れば、それはファミコンとは分野が違うわけですから、今の時代の中ではこれを評価していただける方が、日本だけじゃなくて、アメリカにも、あるいはその他の世界の国々にも、たくさんおいでになるのではなかろうかということで開発したわけです。

ところが、カラー液晶というのは、今のハード技術では太陽の下で見ますと見えなくなってしまう。見えなくなるのは、これはゲームができません。つまり、どこでも遊べない。

つまり、海岸に行って日の光の下にいれば、カラー液晶を使ったら、ゲーム機はもうこれは役に立ちません。それから、携帯型ですから、どこにでも売っている電池を使う、そして、それは安い電池でなければいけないんです。

そうしますと、ご承知のように単3ならつけれる。もしこれをカラーにしますとモノクロに比べて10分の1しか時間がもちません。そんなに短い時間しか連続で遊べないような商品、しかもどこででも遊べない。こういう商品がそもそも携帯型ゲーム機として、ユーザーの満足を到底得ることはできない。

これがいわゆるハードウェア側から見た常識であります。ですから、任天堂はゲームボーイをモノクロにいたしました。

そして、また、モノクロのひとついいことは、それでは、どれだけああいう小さい携帯型ゲーム機にとってマイナス点があるのかと言いますと、ほとんどマイナスはない。あくまでも、そのゲームボーイ用のゲームソフトだ。

ゲームボーイの普及に貢献した『テトリス』

モノクロの良さというものを発揮して、楽しく面白いゲームをして、多くの人達を説得できるかどうかということであるのでありまして、先ほど申し上げましたように、この(聞き取れず)機械、ゲームボーイのソフトウェアであります有名なテトリスというソフト、あの単純でわかりやすくて、子供から大人まで、男も女も、多くの人達が楽しむことができるような、あのソフトが、どれだけゲームボーイというハードウェアを伸ばしていくのに貢献したことは間違いがないんです。

だからといって、そういうテトリスの成功が、すなわち、これがゲームボーイ用ソフトの本命なんだ、このゲームボーイ用テトリスソフトの後を追いかけて、テトリスのようなソフトを開発しようというような考え方をもちますと、次に出てくるソフトは当然のことながら、その二番煎じとか三番煎じになってしまいます。

ファミコンが発売された昭和50年代の終わり、あるいは60年、61年頃は多くのユーザーというのはまだ、このゲームに対して免疫ができていませんでした。

ですから、ゲームセンターの裏で、スピードとスキルを競うようなゲームをファミコン用に移植する。それでも十分に通用したわけです。ですから、ユーザーがそういうソフトをたくさん買いますから、そういうソフトはどんどん種類が増えていきました。

だが今は、もうそういうソフトというのは一般的じゃなくなってきた。と同時に極めて短い時間で多くのユーザーがもう卒業していくわけです。(聞き取れず)免疫が強まっていく。

ですから、テトリスが売れたからといって、そういう分野のゲームソフトが売れるのかといいますと、これはもう、正面から考えても多くの期待をもつことは難しい段階が今も当然訪れてきているわけです。

種類を減らし、独創力と才能で新しい面白さ・楽しさを生み出すこと

そうした状況から考えますとこれからのゲームボーイはどうなっていくのかと言いますと、まず第一に私はソフトメーカーさんにお願いいたしておるんですけれども、(聞き取れず)しっかり努力しせっかく苦心し、せっかく多くのお金を、多くの開発陣を使ってお作りになるわけですから、どうかできるだけ数を、種類を減らしてほしい。

例えば、2作作ろうとされるならば、それはもう、1作に重点を置いてほしいし、4作作ろうと思われるならば、それが2作に絞ってほしい、ということを機会があれば、皆さんにお願いを進めてきたわけでありますけれども、とにかくその、そういう市場に参加されるソフトメーカーさんの数が増えてきまして、そうしますと、例え以前にひとつの会社が一心に作りましても、その種類というのは年間を通しますと随分たくさんになってしまいます。こういうような状況の中ではユーザーが、先ほども申したように、選別する目が段々強まってきておるわけですから、もう、こんなたくさん種類がありましても、

ユーザーが欲しい、買い(聞き取れず)づらいという、そういうゲームソフトはほぼ限られてまいります。そうした限られたゲームソフトにユーザーの購買が集中する傾向が当然強まっておるのは、もう否定できないわけであります。

ところが、ソフトメーカーさんが日々努力されて苦心されておるわけですけれども、今の世界をこうした分野に携わっているソフト開発者、ソフト技術者の数は段々増えてまいりまして、一頃と比べればかなり厚みが出てきたのは事実です。

しかし、ユーザーの(聞き取れず)対して、(聞き取れず)目の肥えてきたユーザーを説得するためには、どうしても独創力、独創的な才能が必要になってきたのもまた、否定できないと思います。

独創的才能というのは一体、どんなことを独創的才能というのかといえば、例えば、先ほど申し上げたようなテトリスというのは、これはもう、独創的才能と言っても過言じゃない。

だから、そういうよく見たもの、二番煎じ、三番煎じになってくると、もう、もはやこれは類似品でありまして独創でもなんでもないわけです。

いわゆるテトリスの良いところをとってやろうとしても、それではユーザーはついてきてくれません。となりますと、もはやソフト開発者というのは、実はたくさんその数が増えても、そしてまた増えれば増えるほど、たくさんの種類を作られる。ということは、つまり、目の肥えてきた大衆の支持を得られないようなソフトがが増えてくるということにもなるわけです。

だからこそ、私はそういう警鐘をソフトメーカーさんにさせていただいているのもそこにありますし、そしてまた、これからのゲームソフトというのは、もう普通のいわゆるソフト技術者がいくら努力されても、多くの人々を説得するソフトを作り出すことは極めて困難であるという段階を迎えておりまして、それが特殊な才能というのが、例えばシナリオライターにしましても、あるいはサウンドクリエイターにしましても、あるいはプログラマーにしましても、デザイナーにしましても、また、そういうことをまとめるディレクターにしましても、それぞれの分野でそうした才能が要求される。

そして、そのそうした才能を結集して、結集することによって、しかも、長い時間が必要です。半年や7ヶ月で即席でゲームソフトを作ろうとしても、いくら才能があっても、それではもう、極めて中途半端なものになってしまう。

そうした才能と1年半とか2年以内とかいうそうした期間とが、どうしても必要になってくる。しかもそういう人達が、世界的に見て今たくさんいるのかと言いますと、まだ今は残念ながら一握りに過ぎないわけです。そう考えていきますと、たくさんのゲームソフトを作るということが、いったいどういうことになるのかと言うと、結局、たくさん作れば作るほど、たくさんの種類を作れば作るほど、売れないソフトが、それに(聞き取れず)増えてくるということになるわけですから、もしも、少ない数、しかも私はゲームソフト開発分野は今や、天才(聞き取れず)よく言っているんですけれども、数少ない天才達が努力し、そして時間をかけて作られたソフト、もしそういうものが、市場に出てくる。

その出てくる種類というのは、今に比べたら比較にならないぐらい少ないんですけれども、そうしますと、扱われる(聞き取れず)まず、今とは違ったふうに、たとえゲームソフトの面白さ、楽しさというのを判断できなくても、まず安心して買うことができます。仕入れることができます。

それはなかには期待外れのものも出てくるかもしれませんけれども、少なくとも10種類出れば半分ぐらいは期待に反さない。
そういうような状況を1日も早く作り出していきたい。

というのが私のかねがねの念願でございまして、そういう面からしますと、本日この初心会主催の展示会、70社以上のソフトメーカーさんがご参加いただいて、そうして、それぞれの自信作を公表して頂いて、という部分に対しまして、ややしも、私も申し上げにくいのが誤解を招くかもしれませんけれども、はっきり言えることは、じゃあ、ここに展示されている多くのソフトウェアがすべて売れるのかと言いますと、これはもう絶対にすべて売れないということがはっきりしているわけであります。

スーパーファミコンのソフトなら安心して買えるようにしたい

じゃあ、このたくさんのソフトウェアの中で半分は売れるのかと言いますと、これはとても半分は売れるとは思えません。

しかし私は、(聞き取れず)展示されている多くのソフトウェアの中で、何種類確実に売れるんだと聞かれれば、残念ながら私はそれに対して今この場で、何種類売れますということを、(聞き取れず)予想しか申し上げることはできない。

なぜならば、我々任天堂は、今日のこの展示された新作というものに対しまして、ほとんど何も知らないからです。

知らないことは言えないものですから。

これはもうやむを得ないわけでありますけれども、そういうふうな状況をまず、流通の皆様方がもう一度再確認をしていただきたい。

というのは、いかにスーパーファミコンといえども、これもまた、その売れるか売れないかを決するのは、スーパーファミコンの上を走るソフトウェアが、多くの人達の期待に答えられる面白さと楽しさをもっているのか、そういうものがいったい何種類あるのか、ということに当然つながってくるわけです。

何もスーパーファミコンを成功させたくて、たくさんの種類が必要じゃないわけです。

今のこの段階は、もう種類を増やすということは流通にとって絶対にプラスではない。
むしろマイナスですよ。
そして、ソフトウェアメーカーにとっても種類を増やすということは決してプラスにはなりません。

そしてまた、お客さんである大衆、ユーザーにとっても、いたずらに目をきかせて迷わすだけでありまして、なんらそれは、いい結果だけとは思えません。

スーパーファミコンはスーパーファミコンのソフトなら安心して買えるんだと。

スーパーファミコンのソフトなら、まずその、最初に私が申しましたように、10種類出れば5種類ぐらいはまず、そんなに仕入れたものが在庫になったりしないで、喜んでみなさんに買っていただくことができるような安心感があるんだということにならなければ、スーパーファミコンもまた、売れないソフトの方が売れるソフトよりも圧倒的にたくさんになってしまう。

ということになってきて、同じようなスーパーファミコンのソフトウェアにつきましては、今日、各社さんがそれぞれいくつかの商品を展示していただいておりますけれども、来年になってきますと、スーパーファミコンのソフトはどんどんと増えてくるということが予想されるんでありますけれども、そのようなことを考えているより、少なくともスーパーファミコンのソフトというのは、ゲームボーイのソフトよりも高いわけです。

高いということはそれだけお金がたくさん仕入れるためにいるわけですから、当然、スーパーファミコンのソフトを買う仕入れのときは、ゲームボーイのソフトを仕入れるよりも、もっともっと慎重に対応していただかなければならないのは、これは当然なんです。

ゲームソフト販売は多様化しない。代替が効く商品ではない特殊なマーケット

今年の、これがもう、11月21日の発売(聞き取れず)年末商戦ということを考えてみましても、スーパーファミコンが発売してから、実質、年末商戦と言われるクリスマスまで、1ヶ月少ししか期間がありません。一体、我々のマーケットというのは、他の市場と違う面が多すぎるいうことを申し上げましたけれども、今は日本のこの中ではよくその、多様化ということは言われます。

多様な時代、レジャーの多様化。

これはもうまさに、レジャーは多様化されてきております。例えば、海外旅行はもうブームですし、誰でもがもう遊びに海外へ行きます。また、ディズニーランドや東京ドームも活況を呈している。このように、いろいろな楽しみを体験する場所が増えてきた。

私共のマーケットもそうした中でのひとつとして、家庭の中で遊ぶいわゆる娯楽の中心にして、私達はそういう分野という、ようやくにして注目され、認知されつつあるわけでありますけれども、しかしながら、多様化というのはレジャーという広い捉え方をしたときには、それはそういえますけれども、私達の分野というふうに、私達のマーケットというふうに、狭い範囲でとらえますと、多様なステージとはとても考えられません。

多様化じゃないわけです。

つまり、大衆は一握りの、どこへでも遊びに行ける、何にでも海外にでもかえると、いうような人達が増えてきまして、我々の商品というのは大衆の商品です。

大衆を(聞き取れず)商品です。特定の人達に売る商品じゃないわけです。

娯楽費、ゲームに使えるお金は限られている

じゃあ一体、大衆はいかに日本が豊かな国になり、飽食の時代と言われる時代がきたといたしましても、いろいろな面でお金がいるわけですから、娯楽費というのは、そんなにそう、大衆にとっては何にでもは買えません、使えません。

どういうその、例えば、自分が稼いで自分がお金を持っている人達は、これは、まあやや話が別であるとしましても、私達のユーザーというのは、何も必ずしも自分が稼ぐ年齢層の人達ばかりじゃなくて、小学生もいますし、中学生(聞き取れず)。そういう子ども達にも、大いにそういう商品を販売、今後していくということになりますと、それらの人達が使えるお金というのは、1年間を通しましても、そんなにたくさんあるわけがない。

なにもその、テレビゲームだけして、もう野球も見たくない、ディズニーランドに行きたくない、海水浴も行きたくない、というのじゃないわけですから。

そうなってきますと、おのずと、その娯楽費というのは、私達のマーケットに落とされてくる娯楽費というのは限られてくるわけであります。

しかも、多くの人達が一体自分は何が欲しいかとなってきますと、アメリカでもそうですし、日本でも同じことが言えるわけですけれども、ほぼ欲しいものは、多様化じゃなくってあるものに集中してしまいます。

多様化されていないということです。

好みが皆さん多くの人達が同じものを好み、ですから、スーパーファミコンが発売されますと、そのスーパーファミコンのソフトウェアが面白い、楽しい、自分達がスーパーファミコンで遊びたいんだということになってくれば、多くの人達がそう思うわけですから、当然、スーパーファミコンに集中してまいります。

スーパーファミコンというのはご承知のように、本体が2万5,000円。ソフトウェアは任天堂が発売するものは7,000円〜8,000円がございますし、ソフトウェアさんが(聞き取れず)そのソフトがいくらか私としてもまだ確認できておりませんけれども、少なくとも、ファミコンソフトに比べれば平均価格は高いはずなんです。

せっかくハードウェアを買ったんだから、おそらく、そういう方々は、平均すれば2種類ぐらいのソフトはお買いになるとしますと、そのためのお金が約4万円位いります。

年末、あるいは正月にかけまして、まあそれに、おじいさん、おばあさん、あるいはお父さんやお母さんから買ってもらおうとか、あるいは、お小遣いをもらうということになりましても、また、毎月お小遣いをもらえるとしましても、それだけの金額がいるもんですから、どうしてもお金を貯めて貯金する、そして自分1人で、(聞き取れず)買うというようなことになるんでありまして、

それが500円とか1,000円とかあるいは2,000円とかで買えるもんだったら、私が申し上げたようなことにはならないわけなんですけれども、なにしろ一番欲しいものがそのように比較的値段が高いわけですから、もう、そのために貯金するとなりますと、少なくとも、そのぐらいのマーケットではもうそれしか、極端なことを言えば、売れないと言っても過言ではなくなってしまう。

他のものが売れない。ということが起こりかねないわけです。
私は実際に起こったことしか申しておりませんけれども。

売れるものは売れる、売れないものは売れない。一極集中のパターン

そのように極端にあるものに集中していくパターン、これはアメリカにおいて既にもう、何年も(聞き取れず)ニンテンドーエンターテイメントシステムを圧倒的シェアが、多くのアメリカ人の前にそれを(聞き取れず)しまして、それを立証いたしました。

日本におきましても、あのドラゴンクエストブームに見られるように、ドラゴンクエストが欲しいんです、ユーザーは。
じゃあ、ドラゴンクエストによく似たロールプレイングゲームというのはないのか。

たくさんあります。

これは皆様方よくご承知のことだと思うんですけれどもたくさんの種類があるのにはある。

そしてまた、ドラゴンクエストよりも安い。

遥かに安いものが、にも関わらず、ユーザーはドラゴンクエスト以外のものがこれだけ安くて、これだけたくさん種類がありますよと、いかに流通の方々がユーザーにおすすめになっても、まずユーザーは買いません、それを。それが、他のものだったらそうはいかない。

いろんな例がありますけれども、例えば、あるA社というビールがあって、そのビールが猛烈に人気が出て、そして、そのビールの好きな人達がA社のビールを愛飲している。(聞き取れず)行ったときに、当然ビールは飲みたい。だから、A社のビールをそこに行った時に、それをくれと言います。

だけども、そのA社のビールというのがどこにでも置いてあるかどうかわからない。もしも、このA社のビールがなかったら、その方はそのBがCも好きな方は飲まないで、ビールを飲まない方がおられるかどうか。

そんなことはまず考えられない。

当然他のビールをお飲みになるわけです。つまり、代替が効くわけです。代替が。その代替が効くということは、そういう類似の商品、類似のA社のビール、B社のビール、C社のビール、いかにA社のビールが人気があって強くても、B社はB社でC社はC社でA社に食われたとかシェアが落ちたとか言っても、何もゼロには絶対にならないわけです。

しかしながら、我々の業界は違うんです。

我々の業界というのは、ドラゴンクエスト(聞き取れず)他の物は、極端なことを言えば、もうほとんどと言ってもいい売れないということが起こりうる。

天と地の開きが生じるわけです。

そういうマーケットであるだけに、私は流通団体の皆皆様にお願い申し上げたいのは、たとえスーパーファミコンと言えども何もスーパーファミコンのソフトだったら、すべて売れるんじゃないか、そういうわけじゃない。

これはもう、当然売れないものも出てくるわけです。
何が売れるのか、何が売れないのかということを、寝食ご検討していただきたい。

スーパーファミコンと年末商戦への展望

今年、この11月21日から発売するスーパーファミコン本体、ハードウェアが、今の任天堂の予定ではクリスマスぐらいまでに60万台出荷しようとする計画をもっています。

この60万台という数字は、正味一月プラスアルファの短い期間でありますから、この短い期間にそれだけのハードウェアを出すということは問題といえば問題がある。

だけども、私達のマーケットというのは、一度(聞き取れず)ますと、ある時期まで留まることを知らないことの状況が過去においてもありましたし、そういう特殊ルールをもっているだけに、任天堂は(聞き取れず)いたしまして、そういう形で今年の年末商戦に臨みたいと考えております。

そして今、月に30万台作る予定で進めておりますけれども、私達の予測では、もしもスーパーファミコンのソフトウェアが、何回も申しますけれども、一定のインターバルで目の肥えた大衆が新しい楽しさ、新しい面白さ、そしてそのゲームソフトの独創力というもの認めて頂けるならば、おそらく私達は(聞き取れず)来年の11月頃までに、日本国内で300万台ぐらいのハードウェアは売れるのではないかという、そういう強気な見方をいたしておりますけれども、

しかし、それと同時に、あくまでもそうした一定のインターバルで種類が少ない点でも、そうしたソフトウェアが市場に出せるという前提にたっているということを、ぜひとも念念受け止めておいていただきたいと思うわけであります。

任天堂の実験、ゲームソフト評価の新たなものさし『スーパーマリオクラブ』

そうした意味から、では一体、任天堂、これからどうして、今まで私が申し上げてきましたような問題点に対して、解決の糸口を見つけようとしているのかというと、になるわけでありますけれども、それが言えば、私達は野球を見ます。ファミコンを使ったネットはファミコンネットワークと言われておりますけれども、これは今、日本の多くの証券会社がこれに参加されて、株式を(聞き取れず)ホームトレードと称される、そうした会員さんを獲得していたようです。

今、約、日本全国で20万世帯には達しておりませんけれども、少なくとも、十数万世帯はそういう端末機を置いておいでになる。そういう、そのファミコン通信を利用いたしまして、任天堂がそのいわゆる、新しく出てくるゲームソフト、もちろん、ファミコンもゲームボーイもそうですけども、そのスーパーファミコンのソフトも含めて、流通の皆々様に、なんらかのものさしを提案させて頂きました。

そして、その皆様方がスーパーマリオクラブという名刺をつけておりまして、ファミコンネットワークの会員になっていただいて、そして、新しく出てくるゲームソフトというのはどのように評価されているのかと、その情報をご参考にしていただきたいと考えているわけであります。

これにつきましては、任天堂は情報を支配しようとして、任天堂は独裁を強くして、というようなことを言う人があるようでありますけれども、これは我々のマーケット、我々の業界というのを、まったく知らない極めて偏った独断でありまして、今、我々のマーケット、正常に流通の方々、ユーザーの方々、ソフトメーカーの方々、もちろん、任天堂も含めて、堅実に着実に、できる限りリスクを少なくして、みんながプラスになる方向づけを図ろうとするときに、どうしたら、今まで全くなかった物差しを、提案しなければならないということは、もうこれは極めて必然性があると、私は確信いたしているわけでありまして、そのために、そうした一部の批判に応えるためにも、任天堂は、その可能性を証明するために、その情報の構築は、世界で一番大きい航空業者であります、(聞き取れず)また、そのゲームソフトの評価が、我が国で有力なテレビ視聴率調査会社のビデオリサーチに委託し、そして任天堂ホストコンピュータを用意して、その運用をやっている。そして、そうした評価、そうした評価は、どのような形で今行おうかとしているのかと申しますと、ビデオリサーチが保有いたしております膨大なリストの中から、東京都、神奈川、千葉、埼玉、各県在住者の中で、15歳〜25歳までのファミコンで遊んだ経験者を2,475人に選びました。

これにモニターをお願いし、それを99人の(聞き取れず)にいたしました。25チーム編成し、その25チームがローテーションを組んで、新しいゲームソフトの評価をやっています。そして、その評価情報の中で、これは少なくとも、まったく面白くない。全く楽しくもないというほどではなくて、少なくとも、好みはいろいろありましょうけれども、ユーザーの方々がなんだこんなものは、と言われる危険性が薄いだろうというようなものの内容を選びまして、それをネットワークでその会員さんに情報として送っていく、そういう実験をこの12月末から、まず問屋さん向けにスタートをきりました。

そして、来年の2月1日から、すべての小売店さんで、希望されるところに対しましては、その情報を提供していく。こうした問題につきましては、それを受けられるための小売店さんや問屋さんの費用の負担というのはゼロではありませんけれども、極めて少ない金額で対応できるわけでありまして、これを、プロダブル・(聞き取れず)・データ。

決して、販売予測ということにつながるわけではないわけですけれども、皆様方の(聞き取れず)ご判断の上でご記入いただくことになるわけですけれども、しかしながら、今までのように何もわからない、まったく物差しがないというのではなくて、少なくとも、何らかの効果はあるはずだと考えているわけでございます。

それでは、来月から、来月初めから日本全国各地でこれの説明会を開かせて頂きます。

どういうことを任天堂は考えているのか、どういうことをやろうとしているのかということを詳しくご説明させて頂き、そしてまた、皆様方のどういうものとか、皆様方のご質問を承って、そして、来年の6月末までそうした実験を繰り返しながら、それがはたして有効なのかどうなのかというご判断を会員さんにしていただくと、このように考えているわけでございます。

そのようなことが、今、今日のこの初心会の主催するゲームソフト展示会が、このような成功というのを、私、今日、つぶさやに見させて頂きました。私は皆様方がこの市場、このマーケットに強く深く期待され、関心をもち続けていただいているということを、改めて確認いたしましたために、何としても、皆様方のそのご期待に応えようではないかと、ご期待に微力ながら、任天堂からこれからもぜひ(聞き取れず)なければならないと痛切に感じまして、そして、こうした試みが、まず、何らかの好結果をもたらしてほしいと切望いたした次第でございます。

本日はご多忙の所、このように多数お集まりいただきまして、今この(聞き取れず)、来年の展望はどうなるんだろうということにつきまして、(聞き取れず)ございましたので、最後の私の来年のこのマーケットの見通しを申し上げますから、来年は、私は繰り返し申し上げました。スーパーファミコンソフトウェアの、この素晴らしさと面白さがすべての鍵を握っているのでありまして、スーパーファミコンが来年私達が目標としている11月までに300万台のユーザーを獲得し、なお(聞き取れず)、来年のマーケットはスーパーファミコン一色に塗りつぶされていく。

そこで私達が今皆様方にお願いし試みとしております、そうした様々な、みんなが、みんなが、そうした私達の戦略が功を奏してくるのではなかろうかと存じ上げる次第でございます。

若干、申し至らない点も多かったんですけれども、ちょうど所定のお時間になりましたので私の話はこれで終わらせていただきます。

ご静聴、まことにありがとうございました。

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