今日は『変化のプロセス』に関するお話をしたいと思います。ビジネスやゼロから何かを産み出す起業においては、この『変化のプロセスを理解し、活用すること』はとんでもなく重要です。変化の差分を認知できることは目には見えないけれど、とっても大事なコトです。
諸行無常
日本の古典、平家物語の冒頭の一句。
祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響あり
沙羅双樹の花の色 盛者必衰の理をあらはす
驕れる者久しからず ただ春の夜の夢の如し
猛き人もついには滅びぬ ひとへに風の前の塵に同じ。(ぎおんしょうじゃのかねのこえ しょぎょうむじょうのひびきあり
さらそうじゅのはなのいろ じょうしゃひっすいのことわりをあらわす
おごれるものひさしからず ただはるのよのゆめのごとし
たけきひともついにはほろびぬ ひとえにかぜのまえのちりにおなじ)
中学校時代の中間テストや期末テストで「ここ、テストに出るよ!」と先生に言われ、暗記させられたなんて人も多いかと思いますが、言いたいことはただ一点。
『この世の現実存在はすべて、すがたも本質も常に流動変化するものであり、一瞬といえども存在は同一性を保持することができない』ということですね。
ガンジー的には。
「はじめは無視され、次に笑われ、それから争いになる。そして最後に君は勝つ。」(マハトマ・ガンディー)
出典が不明なのですが、オフィスに行かない生活によると、ガンジー的に言うとこうなります。さすが、非暴力、不服従の人。非暴力、不服従でも勝利への執念は捨てていません。
『諸行無常』も『ガンジー』も、移ろいゆく変化に着目した。
諸行無常もガンジーも、変化のプロセスを表現した一言です。すべての物事は時間の経過に従い、様々なカタチにその状態を変化させていきます。一時として同じ状態であることはないのですね。
DEREK SIVERSさんのHOW TO START A MOVEMENT(社会運動はどうやって起こすか)
これらの言葉が端的に表現された一つの動画があります。
2010年2月のTED2010で講演されたDEREK SIVERS(デレク・シヴァーズ)さんのHOW TO START A MOVEMENT「社会運動はどうやって起こすか」です。3分程の動画ですので、ご覧になってみてください。日本語での字幕表示もできます。
1.『無視される』フェーズ
はじめは、それがあるということに気づいた人達にも無視されます。無視まで行かなくても、ほとんどの場合『知られていないんです』ね。そういうものがあるということが。
知られていないだけなので、まずは存在を知ってもらうことが必要です。この段階を抜けるためにはマーケティング的な作業が必要になります。この部分は単純に知り、実行さえすればいいので、お金がなかったとしても時間をかければ誰でも抜けられます。
この段階を抜けられないほとんどの場合は、どんな理由にせよ『ただ、やっていないだけ』です。この動画ではわずか数秒ですが、現実世界では毎日20時間無給で仕事をしてどんなに頑張ったとしても、ノーレスポンス、無反応の期間はあなたが想像する以上に長いです。
2.『笑われる』フェーズ
次に、新しいこと、今までと違うこと、今までの常識に反することをやる人はバカにされたり、笑われます。否定的な反応もこの段階で起こります。
なぜ、人がそんな行動をするかというと『今まで自分が正しいと信じていたものが揺るがされる』から。
今まで自分が信じていたものとまったく正反対のことを行い何かしらの結果が生み出されるというのは、『今まで自分が培ってきたもの、信じてきたものを揺るがす大きな脅威』に変わります。
システムが変わろうとするとき、その変化の抵抗勢力と言うのは保守派の人々であり、保守派の人々は「コストをかけて変わるメリットがない」か、「既存のシステムにおいての資産蓄積があり、価値減損が起こる」かのいずれかです。
だから、保守的な各個体は自らの価値保存のために変化を抑制しようとします。もっと単純に恐怖に対する反応と言ってもいいです。その感情が行動として表出化されます。コメントなどを見ても、論理的な指摘よりも感情(情動)的な表現が多く含まれるのでわかりやすいです。
また、笑われるまでいかなかったとしても、積極的な反応が得られない、協力をしてくれると思っていた信じていた人達が実際には何もしてくれないと気づいたり、感じたりするのもこの段階です。これらは消極的否定の行動となります。
3.『争い』のフェーズ
ある方法がうまく行きだすと、次に勝ち馬に乗るために模倣が現れ始めます。スタートアップでは、コピーキャットやクローン戦略なんて呼ばれますね。雨後の竹の子のごとく、どこかで見た似たようなものが世界に乱立します。戦国時代の様相を呈し始め、各々のプレイヤー同士の全面戦争に突入します。
コピー戦略は、『リスクが少なく、早めに着手すればリターンが大きい』ので合理的な戦略とも言えます。ただし、コピー戦略をやるのであれば、タイミングやコピーの方法には細心の注意が必要です。このタイミングの判別についてはSカーブ理論が結構使えます。
スティーブ・ジョブズが言う「偉大な芸術家は盗む」のがこの段階ですね。
4.『最終形態』フェーズ
この段階はどうなるのかよくわかりません。私自身体験したことがないので。話に聞くところによると、何か盛り上がるらしいです。体験したことがある方は、教えてください。
もちろんビジネスでも同じこと。
これは起業やビジネスにおいても同様です。この流れに従い、成長、進化していきます。フェーズがどう変わったかを判断するには、『問題(感情体験においては不快)の発生』がトリガーになります。新しい段階に進むための入り口は、常に問題として私たちの前に現れます。なぜなら、私たちの脳活動というのは非常にエネルギーを使いますので、人は問題が起こらなければコストがかかる行動をしないからです。
- 「問題が発生した!」(問題の認識)
- 「マズイ、どうにかしなきゃ(><)」(危機感・行動の必要性)
- 「行動した、行動せざるを得なくなった」(試行・実行)
- 「新しい結果を得た!(成功 or 失敗)」(変化)
この連鎖が自己の世界を拡張し、新しい世界を生み出します。
ビジネスや起業における成功者の多くが『行動することが何よりも重要だ』と、自己啓発本やインタビュー、講演などで嫌になるぐらい話していますが、どんなに知識や能力、経験があっても、行動しなければ何もアウトプットは出てきません。残念ながら。
幕末から明治維新に至る変化プロセスも、徳川幕府が安泰で嘉永6年(1853年)のペリー黒船来航がなければ、ある世界の内部にいる人間には問題だと認知できません。
黒船という誰にとっても目に見える問題が発生し、メンバー全員(日本人)に情報と危機感が共有されたことで、じゃあどうあるべきかという賛否両論の議論が起こり、各地で思想を共にする人間が組織を創り実際に行動をした結果、それらの組織間で争いが起こり、その勝者が新しい明治という時代を創りだしました。
見えない世界でどうやってフェーズの移行を認識するか?
それぞれの段階においては、異なる種類の問題が発生してきますので、この問題が発生してきたら、『次のフェーズに移行した』というタイミングが把握できます。
たとえば、
- 無視されるフェーズでは、新しく作ったプロダクトをリリースしたのに、「人が集まらない、まったく反応がない」とか
- 笑われるフェーズでは、Twitterやアプリのレビュー欄で言及され始めたけど「否定的なコメントばっかり」とか、人はいるけど誰もお金を払わないとか
- やっとうまく行き始めたと思ったら、似たようなコピーやクローンの「競合やライバルがうじゃうじゃ出てきた」とか、自分が知りもしない人に勝手に真似されているとか
- 後発で出てきたライバルに勝つために「消耗戦に突入してみる」とか、ですね。
要は、『段階が変われば、悩みの種類が変わります』。状態と課題というのは常にセットです。ですから、その人の悩みや課題を聞けば、今どの段階にいるのかもおのずとわかります。
ゼロスタートで始めるほとんどのプロダクトやサービスというのは『無視されるフェーズ』を抜け切れません。この期間を抜けられず、報酬が得られず、そのまま死んでいくのが大半です。そう考えると、否定的意見だろうが、何かしらの反応があるということは次の段階に進んでいることの何よりの証明とも言えます。
受託開発ばかりしているエンジニアが自社サービスで成功するには?
よく受託開発をメインに行っているエンジニアや受託開発会社が「自社のWebサービスでビジネスをやりたい」という要望を聞きますが、ほとんどの場合は失敗します。
これ、失敗のパターンというのはもう明確にわかっています。プログラミングやデザインなどの制作系のスキルがあって自らの手を動かすことで、プロダクトを創れても、受託系のクライアントビジネスの環境にどっぷり浸かってしまうと、そもそもマインドセットのレベルで準備や納得ができていません。
「あーあ、これやだなぁ。あれがあればなぁ…」なんて思いながらも、どうしても新しいことをやらなきゃいけない理由がない」状態です。今やっている受託開発でも仕事はあるし一定のニーズもある。回数をこなせばお金も稼げるという状況では、欠乏ではなく、願望なんですね。ダイエットと同じでただの願望の実現は難しいです。
「あーあ、魔法が使えるようになればいいなぁ…」と思うぐらいファンタジーです。私も含め、みんなファンタジーは大好きです。
また、受託系のクライアントビジネスばかりやっていると、メディアやサービスを育てるマーケティングな知見やスキルセットを持っていないというリソース不足が現実問題としてあります。
受託開発ばかりやっていると、基本的に新しい案件というのは、既存の取引先からのリピートや、取引先からの紹介というカタチで回っていることが多数なので、「自社でわざわざコストをかけて、マーケティングや集客をやる必要がない。」だから、エンジニアやデザイナー、ディレクターはいるけど、マーケッターがいないということが往々にしてあります。
マーケッターやマーケティングスキルがないと、ゼロスタートのサービスは立ち上がっていきません。ウェブサイトやブログでも同じです。ゼロから何かを始めるとき、マーケティングの知見というのはとても大事です。『マーケティングは、プレスリリースを打って終わりじゃない』です。プレスリリースを打っただけで終わるのは、エンジニアだけで作られたあなたのサービスです。
あなたは、遅延報酬をどう評価する?
そして、最後に決定的な意思決定となるのが『報酬の獲得に関する評価判断』です。受託ビジネスだったらやれば早ければ翌月にキャッシュイン(売上の発生)するのが明確にわかりますが、自社サービスだといつキャッシュインするかわかりません。
『そもそも、本当にキャッシュインするのかどうかも怪しいです。』
キャッシュインするかどうかはユーザーももちろんですが、サービス提供側の創意工夫による部分が大きいです。本質的にはキャッシュインするかどうかは自分たちの行動にかかっているので、「自分たちが行動するかどうか?」を評価しなければいけないわけです。
「そんなのわかるわけないじゃないですか!? モチベーションも状況も、優先順位も刻一刻と変わるのに。」
本業の傍らで何とか空き時間を作り、大変な労力と時間をかけてやるのに、報酬が得られるかどうかわからないというマゾいビジネスなんです、自分がオーナーとなって始めるビジネスというのは。だから、殆どの人は受託系のクライアントビジネスを続け、自社サービスをやろうとはしません。
成功するためには、価値観を変えることが必要になります。今まで海で暮らしていた生物が陸上で生活をするようになるような環境変化です。その結果、行動が変わり、ビジネスモデルがフローからストックに変わり、おたまじゃくしがカエルになるような劇的な変態(transform)を生み出します。
願望だけで危機感もなければ、ゴールを実現するモチベーションもなければ、必要なスキルセットを持ったリソースもない、無報酬期間に耐えられる体力もない、ではそりゃ失敗します。それでうまくいくと考えるのは、飲みの席での場の勢いか、頭の中がファンタジーすぎると言わざるを得ません。
これが、私が15年前の自分に伝えたいことです。
私ならこう言います
冒頭に出したガンジーの言葉をちょっと変えてみましょう。私だったらこうします。
「はじめは無視され、次に笑われ、それから争いになる。そして最後に信念は勝つ」
誰が勝者になるのかはわかりません。それは後の時代になって結果が出て初めてわかること。
しかし、数千年にも及ぶ人間行動の本質をこの変化のプロセスで考えてみると、短期的な利益によらず価値を与え続けた人が勝者になるだろうということは断言できます。
先に気づいたあらゆる時代や国の先人達はこの本質を教えてくれています。